この剣を抜くことができたら勇者


「この剣を抜くことができた者が、世界を救う勇者じゃ」
 触れを出して集めた勇者候補生たちに、白髭の師匠は、もっともらしくそう言った。
「君たちは世界を救うため、いまからわしと修行をする。そうした後、この剣を抜くことができれば、立派な勇者として旅立てるであろう」
「……この剣を?」
「マジか? 冗談だろ?」
「こんなデカいもん、物理的に抜けるわけねえよ」
 候補生たちがざわめく。と、その中の一人が、
「でも、特別な才能があればすぐに抜けるんですよね? 魔法とか、能力とか、そういう力で」
「いや。この世に魔法や能力などというものはない」
 師匠は首を振った。
「そんなものは、物語の中だけの話じゃ」
「じゃ、無理じゃん」
「無理だよな」
「おい、もう行こうぜ」
 その言葉を聞いて、皆がぞろぞろと帰っていく。しばらくすると、あんなに大勢いた候補生たちは、たったの五人になっていた。
「……君たちには、これから辛く苦しい修行が待っている」
 その残った五人に、師匠はゆっくりとそう言った。
「いいか。さっきも言ったように、この剣は魔法や能力を抜きにした、ただの剣だ。だからこれを抜くためには、まず単純に筋力がいる。そして、筋力とは一朝一夕でつくものではなく、毎日の地道な積み重ねによって育まれるものだ」
 彼は自分の背ほどもあるその大剣の柄を握った。そして、
「世界を救う――大きな言葉だ。しかし、大きな事を成し遂げるには、それ相応の努力がいる。少なくとも、最初から何も努力をせずに大剣が抜けるなどと思っている輩では無理だろう。能力は持って生まれるものでも、誰かに与えられるものでもない。自分自身の力でつかみ取るものだ」
 そう言うと、老人らしからぬその太い腕で、大剣を天に掲げた。おお、五人が感嘆の声を上げる。
 彼は剣を再び戻し、
「……君たちに試されるのは、剣を抜くことじゃない。剣を抜くための努力だ。わかったら、明日から修行を始めよう」
 そう言うと、いまはまだ小さな勇者たちに笑顔をつくった。