日本の未来


 彼は祖国、大日本帝国を愛する若者だった。その愛国心は彼を特攻隊員に志願させた。いま、彼の目はアメリカの艦隊を捉えていた。あそこに突っ込み、自爆する。それが彼の望んだ道なのだ。彼は迷うことなく操縦桿を倒した。
 エンジンが最後のうなりを上げ、加速していく。大日本帝国バンザイ、彼は突撃する一瞬前にそう思い――その一瞬後にこう思った。
 ――俺は祖国に勝利をもたらせるだろうか。
 それは命を惜しんでの考えではなかった。ただ、彼はその一瞬、強くこう望んだのだ。――祖国の未来を見てみたい、と。
〈その願い、叶えて進ぜよう〉
 すると頭の中に声が聞こえ――彼は未来にワープした。

「これが……大日本帝国……」
 広がった光景に、目頭が熱くなった。
 建ち並ぶビル群、走る車、たくさんの人々。祖国はアメリカに勝利したのだ。でなければ、こんな光景は見られないだろう。
「おお、街頭に映画が……」
 それは映画ではなく、渋谷の大型ビジョンなのだが、彼はそれを知らない。と、そこに映し出されたものを見て、彼は驚愕した。
 筋骨隆々の上半身裸の男たちが、奇妙な踊りを踊っている。肌が浅黒い。まるでアメリカ人のような黒眼鏡をかけている。祖国は負け、アメリカに支配されていたのか――彼は真っ青になった。
〈それは違うぞ〉
 すると、再び頭の中に声が聞こえた。
〈安心せい、あの者たちはれっきとした日本人じゃ〉
「そうでありましたか……」
 きっと南方の領地の者なのだろう。彼は納得した。けれど、再び不安を覚えた。
「しかし、まだ祖国は戦争中なのでしょうか」
〈なぜ、そう思う?〉
「それは……あの者たちの鍛えた体つき。あれは訓練のたまものなのでは……」
〈安心せい。彼らの筋肉は戦うためではない。ああして踊るためのものなのじゃよ。あの踊りが、この時代では流行っておるのじゃ〉
「そうでありましたか……」
 彼は再び納得した。そして、安心して目を閉じた。大丈夫だ、俺たちの働きで祖国の未来は明るいのだ――次の瞬間、時は巻き戻り、彼は戦闘機と共に木っ端微塵に砕け散った。