天国の役人


 言わずと知れたことであろうが、天国の門というものはたくさんある。
 キリスト教、ユダヤ教、イスラム教――死んだ人間の宗教に応じて、それぞれ行く場所は違う。そして、たくさんある門のどこへ行けばいいのか、道案内をする男たちがいた。
「俺は道教なんだが、道はこっちでいいのか?」
「ジャイナ教はどこへ行けばいいんだ?」
「シーク教徒は……?」
 その忙しさときたら、田舎者や外国人がひっきりなしに訪れる渋谷駅前の交番に匹敵するほどである。
「今日もまた忙しいな」
「ああ、人間はもう少し計画的に死んでほしいものだ」
「看板をわかりやすく作り直すか?」
「いや、しかしそんなことをしてもな……」
 男の一人がそう言って、ギョッと道の向こうを見た。
「ヤバい、あいつらだ。あいつらが団体でやってきたぞ」
「嘘だろ、こんな忙しいときに」
「俺はあっちで道を教えてくる。あとは頼んだ!」
「あ、あいつ逃げやがったぞ!」
「俺たちだけじゃ、あいつらの行き先を教えるのにどれだけかかるか……」
「今夜は徹夜だな」
「あのう、すみません。私たちはどこへ行けばいいのか、教えていただいてもいいでしょうか?」
 男たちが恐れる団体は、道案内の看板をしばらく見つめて首をかしげたあと、おずおずと尋ねてきた。
 彼らはもちろん日本人。
 個人としては特定の宗教を信じていないが、かといって無神論者ではなく、実家は仏教か何かだというあやふやな情報を持ってやってくる、非情に迷惑な人種であった。